LIVE REPORT
2年ぶりの来日公演が遂に開幕!
初日4/14(月)公演のライブレポートが到着!
第1弾は大友博さんです!
定刻の19時は数分過ぎたころ、客電が落ちるとすぐ、舞台上手から、クラプトンがゆっくりと歩み出てきて、美しいストラトキャスターを手にとる。何度か彼のコンサートに足を運んでいるファンの方にはもうお馴染みの、安心感のようなものを抱かせてくれる光景だが、それからが、なんとも意外な(きわめていい意味での)展開だった。マイナー・スケールの短いオーヴァーチュアのあと、右足をワウワウに乗せると、「ホワイト・ルーム」のイントロを弾きはじめたのだ。クリーム時代の代表曲で、コンサート終盤に演奏するものという印象の強い名曲を、いきなり聞かせてくれたわけである。
クラプトンが歌いはじめると、ドイル・ブラムホールⅡが左利き逆張りギタリスト特有のシャープなフレーズで、そのヴォーカルと絡み、曲全体に緊張感を与えていく。単なる名曲再訪ということではない。
エリック・クラプトンの2025年日本公演初日は、その、現在進行形の、21世紀版「ホワイト・ルーム」でスタートした。1974年秋の初ジャパン・ツアーから約半世紀。3月30日に80回目の誕生日を迎えていた彼は、通算24回目となる今回の公演では、その初来日以来こよなく愛してきた日本武道館で8回もステージに立つことになる。ヤードバーズやブルースブレイカーズの時代にクラプトンというアーティストの存在を知り、初ジャパン・ツアーを熱心に待ちつづけた文字どおりの信奉者たち、「ティアーズ・イン・ヘヴン」や『アンプラグド』の世界的ヒットをきっかけに彼の音楽を知った世代の人たち、その子供や孫の世代かもしれない若者たち。八角形の巨大な空間を埋めた、幅広い層の、たくさんの人たちを、クラプトンはまずその「ホワイト・ルーム」で、彼の世界にぐっと引き込んだのだ。
そのあとは、「キー・トゥ・ザ・ハイウェイ」、「フーチー・クーチー・マン」とブルースの名曲がつづき、そして「サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ」のイントロが強烈な音圧で響き渡る。ブルースの古典2曲をはさみ、「ホワイト・ルーム」と「サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ」をほぼメドレーのような流れで聞かせてしまうこの導入部は、「まさか」と思わせるものだった。
椅子に腰をおろしてのアコースティック・セットは、ロバート・ジョンソンの「カインド・ハーテッド・ウーマン」からスタートし、2枚組の最新作『ミーンホワイル』でも取り上げられていた「ザ・コール」へと進んでいく。ボブ・ディランの重要な音楽仲間の一人だったボブ・ニューワースが1999年に残した曲のカヴァーで、どこかに去っていった友人たちへの想いが込められた歌詞を、クラプトンはじつに丁寧に歌っていた。彼のギターも、バンドの演奏も、繊細で、美しい。残念ながら客席からの反応はあまりなかったが、これは、今回クラプトンがもっともやりたいと思っていた曲なのかもしれない(短いトークで触れられた故・有働誠次郎氏との思い出ともつながる曲ではないかと、勝手に思ったりもした)。
アコースティック・セットはさらに、12弦ギターに持ち替えて歌った「マザーレス・チャイルド」、そして「ノーバディ・ノウズ・ユー・ホエン・ユー・アー・ダウン・アンド・アウト」とつづき、5曲目は、1978年のアルバム『バックレス』に収めた自作曲で、パンデミックの時期に録音した『ロックダウン・セッションズ : ザ・レディ・イン・ザ・バルコニー』でも取り上げられていた「ゴールデン・リング」。そして、軽くレゲエのリズムを導入した「ティアーズ・イン・ヘヴン」でアコースティック・セットを締めくくると、クラプトンはふたたびストラトキャスターを手にした。
まずは、ジョージ・ハリスンとの共作曲「バッジ」。ギターもヴォーカルも、ひさびさのツアーの初日とは思えないほどの力強さで(しかも、80歳!)、その感触を本人が心から楽しんでいる様子が伝わってくる。そのギター、とりわけソロに関しては、つづいて演奏された長尺の「オールド・ラヴ」がもっとも強く印象に残った。もちろんそれは、クラプトン自身もしっかりと感じているはず。だからこそ彼は、ステージに立ちつづけるのだ。1997年にはじめてインタビューしたとき、52歳の彼が口にしていた「70になっても、80になっても、偉大なブルースマンたちのようにギターを弾き、歌っていたい」という言葉をふと思い出したりもした。
つづいて「ワンダフル・トゥナイト」をさらりと聞かせたあとは、「クロスロード」、「リトル・クイーン・オブ・スペイズ」と、ロバート・ジョンソンの曲がつづく。ジョンソンの「クロス・ロード・ブルース」を新たなロックの時代にいわば翻案した「クロスロード」は疾走感あふれるプレイで、「リトル〜」はスロー・ブルースのお手本のような演奏で、やはり、あらためて「まだまだ」と思わせてくれた。
ネイザン・イーストが5弦ベースの高音部で弾くイントロから、クリス・ステイントンのピアノ・ソロまで、メンバー全員がそれぞれに個性的な演奏で全力を出しきった「コケイン」で、コンサートはいったん終了。アンコールにはボ・ディドリーの「ビフォー・ユー・アキューズ・ミー」を聞かせてくれて、初日は幕を閉じた。
エリック・クラプトン2025年日本公演は、さらに7回が予定されている。そして、最終日の4月27日には、武道館での通算公演回数がついに110回に到達する。とてつもない記録である。もっとも本人は、そういった数字などあまり意識することもなく、自ら楽しみながら、納得しながら、満員のオーディエンスに上質なパフォーマンスを届けることに集中していくに違いない。その想いは、初日のプログラムとそれぞれの曲への取り組みからも、しっかりと伝わってきた。
文:大友博
写真:土居政則